
皆さんは、空を飛ぶ鳥のように自由に空を舞い、そのまま宇宙までひとっ飛びできたら、どんなに素晴らしいだろうと思ったことはありませんか? 特に、高価なロケットを使わずに、普段乗っている旅客機で宇宙旅行ができるとしたら、夢のような話ですよね。「飛行機で宇宙へ行ける」なんて、想像するだけでワクワクしてしまいます。
しかし、現実はそう甘くはありません。旅客機で宇宙を目指すには、想像を絶する困難が待ち受けているのです。この記事では、なぜ旅客機では宇宙に行けないのか、その理由を、飛行機やロケットの仕組み、宇宙空間の特性などを踏まえながら、分かりやすく解説していきます。さあ、一緒に知的好奇心の旅に出かけましょう!
旅客機で宇宙旅行は可能か? 現実と課題
飛行機で宇宙へ行ける?夢の宇宙旅行構想
宇宙旅行、それは人類が古くから抱き続けてきた夢の一つです。しかし、その夢を実現させるためには、地球の重力に打ち勝ち、大気圏を突破する、ロケットを打ち上げるしかありません。しかし近年民間企業の参入が相次ぎ、いよいよその夢が実現に近づいてきました。そこで、多くの人が抱くのは、私たちが普段から利用している飛行機。これを利用して、もっと手軽に、安全に、宇宙空間までいくことはできないのか?という夢ではないでしょうか?
宇宙旅行の現状:高額なロケットと身近な旅客機
現在の宇宙旅行は、主にロケットによって実現されています。しかし、ロケットの打ち上げには莫大な費用がかかり、一回の飛行で数百億円ものコストが発生することも珍しくありません。これでは、一般市民が気軽に宇宙旅行を楽しむことは難しいでしょう。一方で、旅客機による空の旅は、ロケットと比べればはるかに安価であり、私たちにとって身近な存在です。もし、旅客機で宇宙に行けるようになれば、宇宙旅行のハードルは劇的に下がり、多くの人にとって夢が現実となるでしょう。
ロケットの仕組み:莫大なエネルギーで宇宙へ
ロケットの推進力:風船と同じ原理?
ロケットが宇宙へ到達できる理由は、その強力な推進力にあります。その原理は、実は風船を膨らませて手を離したときに風船が飛んでいくのと同じなのです。風船の口から空気が勢いよく噴き出すことで、反作用で風船が前進しますね。ロケットも同様に、高温・高圧のガスを後方に噴射することで、その反作用で前進するのです。非常にシンプルな原理です。しかし、それを実現するための仕組みは大変高度です。

重力の壁:燃料が90%を占めるロケットの構造
しかし、風船とロケットでは、必要とされるエネルギーの量が桁違いです。地球の重力は非常に強大で、宇宙空間に出るためには、秒速7.9km(第一宇宙速度)という、とてつもない速度を出す必要があります。この速度を実現するために、ロケットは大量の燃料、例えば液体酸素と液体水素などの反応しやすい物質を搭載し、それらを燃焼させてエネルギーを得ているのです。実際に、宇宙に到達するために設計されたロケットは、その重量の約90%を燃料が占めています。いかに多くのエネルギーを必要とするかが、わかるでしょう。
旅客機の飛行原理:空気の存在が不可欠
ジェットエンジンと揚力:空気の役割
一方、旅客機が空を飛ぶ仕組みは、ロケットとは全く異なります。旅客機は、主にジェットエンジンによって推進力を得ています。ジェットエンジンは、空気を取り込み、その中の酸素を使って燃料を燃焼させ、高温のガスを後方に噴射することで推進力を得る仕組みです。また、飛行機雲でよく見かけることがあるでしょう、白い雲です。あれは、排気ガスに含まれる微粒子が核となり、空気中の水蒸気がそれに付着することでできます。つまり、空気中にある酸素を燃焼させるためには、酸素を含む空気が必要不可欠なのです。さらに、飛行機の翼は、揚力と呼ばれる上向きの力を発生させることで、機体を空中に浮かべています。この揚力は、翼の上面と下面を流れる空気の速度差によって生じる圧力差によって発生します。つまり、旅客機が飛ぶためには、推進力を得るためにも、揚力を得るためにも、「空気」が絶対に必要不可欠なのです。

旅客機の飛行高度:空気抵抗と酸素のバランス
旅客機が通常、高度約1万メートル付近を飛行しているのには理由があります。この高度は、空気抵抗を減らして燃費を向上させつつ、ジェットエンジンが燃焼するために必要な酸素を十分に確保できる、最適なバランスが取れた高度なのです。これより高い高度を飛ぶことも技術的には可能ですが、空気が薄くなるため、エンジン燃焼や揚力の確保が困難になり、危険が伴います。
旅客機で宇宙を目指すとどうなる?
高度1万メートル以上で起こること:酸素不足と揚力の喪失
では、もし仮に旅客機で宇宙を目指して、どんどん高度を上げていったらどうなるのでしょうか? 高度1万メートルを超えると、空気はさらに薄くなります。そうなると、ジェットエンジンは燃焼に必要な酸素を十分に得ることができなくなり、推力が低下します。また、空気が薄くなることで、翼が生み出す揚力も減少します。つまり、高度を上げれば上げるほど、旅客機は飛ぶための力を失っていくことになるのです。
宇宙までの距離:旅客機の飛行高度は1/10
そもそも、私たちが「宇宙」と呼ぶ空間は、一般的に高度100km以上と定義されています(これは「カーマン・ライン」と呼ばれ、地球の大気圏と宇宙空間の境界線の指標としてよく用いられます)。一方、旅客機の飛行高度は約10kmです。つまり、旅客機が通常飛行している高度は、宇宙までの距離のわずか1/10程度に過ぎないのです。このことからも、旅客機で宇宙に到達することが、いかに難しいかが分かるでしょう。

旅客機が高度を上げ続けると起こる危険
エンジン停止と高度低下:空気の薄さが招く危機
高度を上げ続けると、空気の薄さによって、ジェットエンジンが正常に燃焼し続けることが難しくなっていきます。最悪の場合、エンジンが停止し、推力を失ってしまう可能性があります。また、前述の通り、揚力も低下するため、機体は高度を維持することができず、徐々に降下していくことになるでしょう。
失速:揚力の消失と制御不能の危険性
飛行機が飛行するためには、翼が生み出す揚力が必要です。しかし、この揚力は、速度が遅くなりすぎると突然失われてしまいます。この現象を「失速」と呼びます。失速状態に陥ると、機体はコントロールを失い、最悪の場合、墜落してしまう危険性があります。旅客機が一定以上の速度を保って飛行しているのは、この失速を防ぐためでもあるのです。
音速突破と衝撃波:飛行機への影響
旅客機の速度を上げ続けると、いつかは音速(音の伝わる速さ)に到達します。音速を超えて飛行する物体は、その後方に衝撃波と呼ばれる非常に強い圧力変化を発生させます。この衝撃波は、機体に大きな負荷を与え、最悪の場合、機体の損傷や制御不能を引き起こす可能性があります。このため、旅客機が音速付近で飛行する際は、特別の注意を要します。
コッフィンコーナー:高度上昇による速度制限と墜落の危険

旅客機が安全に飛行できる速度の範囲は、高度によって変わってきます。高度が上がるにつれて、空気密度が低下するため、失速する速度は速くなります。一方、音速は高度が上がると遅くなることが多いです。そのため、高度を上げると、失速せずに飛べる速度かつ、音速を超えない速度、つまり、安全に飛行できる速度の範囲はどんどん狭まっていくのです。この速度範囲をグラフで表すと、まるで棺桶のような形に見えるため、「コッフィンコーナー(Coffin Corner)」と呼ばれ、非常に危険な状態とされています。
未来の宇宙旅行:新たな技術と構想
宇宙エレベーター:夢の輸送手段

旅客機で直接宇宙に行くことは難しいとわかった現在、それではどのようにしたら宇宙旅行は実現できるのでしょうか。現在、様々な方法が研究されています。例えば、「宇宙エレベーター」という構想があります。これは、地球から静止軌道(高度約3万6000km)まで、非常に長いケーブル(テザー)を伸ばし、それに沿って昇降機(クライマー)を上下させることで、人や物資を宇宙空間まで運ぼうという、壮大な計画です。この方法ならば、ロケットのように大量の燃料を必要とせず、効率的に宇宙まで到達できると考えられています。しかし、宇宙エレベーターには、数万kmにも及ぶ長大なケーブルに耐えうる、超高強度かつ軽量な材料が必要となり、現状では、その条件を満たす素材は存在しないか、あるいは、実験室レベルでしか合成できないなど、実用化への課題は山積みです。
旅客機発射型宇宙船:ヴァージンギャラクティック社の挑戦

もう一つ、興味深いアプローチとして、ヴァージン・ギャラクティック社などが進めている「空中発射」方式があります。これは、ロケットを搭載した宇宙船を、まず大型の航空機で高高度まで運び、そこからロケットを分離・点火して宇宙空間へと到達させるという方法です。この方法のメリットは、空気抵抗の少ない高高度から発射することで、ロケットの燃料を節約できる点にあります。また、滑走路から離陸できるため、発射場の制約を受けにくいという利点もあります。現在、この方式での有人宇宙飛行の実現に向けて、開発や試験が進められています。
まとめ:旅客機で宇宙旅行は可能? 未来への展望
飛行機で宇宙へ行ける日は来るのか? 現状と未来の技術
さて、旅客機で宇宙を目指すとどうなるのか、その理由と、宇宙旅行の未来について解説してきました。結論としては、現状の旅客機では、残念ながら宇宙へ到達することは不可能です。その主な理由は、以下の通りです。
- 空気の存在: 旅客機は、ジェットエンジンの燃焼と揚力の発生のために、空気中の酸素を必要とするため、空気のない宇宙空間では飛行できない。
- 高度の限界: 宇宙空間は、一般的に高度100km以上と定義されているが、旅客機の飛行高度は通常約10kmであり、全く足りない。
- 速度の限界: 宇宙空間に出るためには、秒速7.9km(第一宇宙速度)以上の速度が必要だが、旅客機では到底到達できない。
- 安全性の問題: 高度を上げると、失速や音速突破、コフィンコーナーなどの危険性が高まる。
しかし、将来的に、新たな技術革新が起きれば、旅客機、あるいはそれに近い形態の乗り物で、より手軽に宇宙に行けるようになる可能性はゼロではありません。例えば、前述の宇宙エレベーターや空中発射方式などが、その実現に貢献するかもしれません。
旅客機とロケット:宇宙旅行実現への異なるアプローチ
現状では、宇宙旅行を実現するためには、ロケットが最も現実的な選択肢です。ロケットは、大量の燃料を消費することで、地球の重力に打ち勝つ強力な推進力を生み出し、宇宙空間へと到達することができます。しかし、そのコストの高さが、宇宙旅行の普及を妨げていることも事実です。旅客機とロケット、どちらも一長一短があります。旅客機は安価で身近な存在ですが、宇宙へは行けません。一方、ロケットは宇宙へ行けますが、高価で特別な訓練を受けた人でなければ搭乗は難しいでしょう。それぞれの特性を活かしながら、将来的に、より安全で、安価で、誰もが楽しめる宇宙旅行が実現することを期待しましょう。